カレン・ラッセル 『狼少女たちの聖ルーシー寮』

狼少女たちの聖ルーシー寮


人間に矯正させられる狼少女、ミノタウロスの父と西部を目指す少年、幽霊の見えるゴーグルで死んだ妹を捜す兄弟…。大注目作家による目も眩むほど奇妙で独創的な短篇集を、松田青子が翻訳!

カレン・ラッセル 『狼少女たちの聖ルーシー寮』読了。
(原題:St. Lucy's Home for Girls Raised by Wolves   松田青子訳 )


松田青子さんの翻訳が超エクセレント!(*⁰▿⁰*)
きゅーと!はいせんす!!まーべらす!!!

最近読んだケリー・リンクの『プリティ・モンスターズ』とか
2013年マイベストのケイト・アトキンソン『世界が終るわけではなく』とか、
欧米の女流作家によるマジックリアリズム的作風がわたしはすごく好きみたいで、
この3作の中ではやっぱりケイト・アトキンソンが一番好きなんだけども
(モチーフとかユーモアセンスが一番ツボに来て気持ちよく酔える)
翻訳の絶妙さはこれがピカイチだなあ。

例えば「夢見障害者のためのZ・Z睡眠矯正キャンプ」の中の、
主人公の少年が片想いしている女の子・エマの描写。

「ありがと、オグリヴィー」エマは微笑む。巻き毛が、バルーンの光の中でバラ色に輝く。全身ぼさぼさで、青白くて、瞳の下にはスミレ色の半月が二つある。ほれぼれするほど死の乙女。  (「夢見障害者のためのZ・Z睡眠矯正キャンプ」p69)

少年の淡い恋心が読み手にまで伝染するかのようではないですか。
この描写でわたしはエマに一目惚れしましたよ。(一読惚れ?)



特に好きだなーって思ったの4篇。

「夢見障害者のためのZ・Z睡眠矯正キャンプ」
 少年が知った本当の孤独。
 そこまで辿り着いた時が少年期の終わりなのかな。せつない。


「星座観察者の夏休みの犯罪記録」
 夏休みには冒険がつきもの。


「海のうえ」
 こういうの好きすぎる。片足を失った老船乗りが少女に恋をする。
 見てはいけないものを盗み見ているような、後ろめたいような
 じくじくした愉悦に悶絶する。
 少女が気に入るものを探して、少女が盗りやすいようにと慎重に部屋に配置する
 シーンが最高に哀れでいじましく、甘美。


「狼少女たちの聖ルーシー寮」
 狼少女たちが人間社会へと矯正させられていく過程で、群れの本能とか
 種としての尊厳みたいなのを剥ぎ取られていく。
 人間に近づけば近づくほど妹を疎ましく思うようになったり、
 自らの保身に必死になり、コミュニティから落ちこぼれを排斥しようとする
 冷酷さを身につけていく少女(の集団)。
 痛烈なアイロニーが込められているのにとてもキュート。これは傑作。


「西に向かう子どもたちの回想録」はドナー隊が元ネタなのかなと思って読んでたので、
ミノタウルス父さんがいつ人を喰いはじめるかとヒヤヒヤしたよ(⊃д⊂)


基本的に少年少女が中心で、(「海のうえ」だけちょっと毛色がちがう)
成長の過程で避けては通れない痛みとか苦しみ、別離、喪失、
そういうものが描かれている。

どの短編も、読み終わった時にすうすうした寂しさや、
擦りむいたようなひりひりした感じが胸に残る。


 



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