川上未映子 『愛の夢とか』

愛の夢とか


あのとき、ふたりが世界のすべてになった。なにげない日常がゆらいで光を放つ瞬間をとらえた、心ゆさぶる7ストーリーズ。

川上未映子 『愛の夢とか』読了。

収録されている順に「アイスクリーム熱」「愛の夢とか」
「いちご畑が永遠につづいてゆくのだから」「日曜日はどこへ」まで読んで、
「あれっ川上さんずいぶん丸くなったな・・・?」と思った。
褒め言葉としてではなく、“つまらない・平凡”とニアリーイコールな意味で。

が、「お花畑自身」が、わたしの大好物な“女の悪意”の描き方が切れ味抜群で、
うわあこういうの好き好き大好きー!ぜんぜん丸くないですすみません。
正直、前半の4編は何も心に残るものはなくてすぐ忘れるような気がするんだけど
「お花畑自身」が死ぬほど面白かったんで短編集ってのはやっぱりいいなあ。

「お花畑自身」は経営者の旦那を持ち、
何一つ不自由なく暮らしている専業主婦(50代くらい?)が主人公で、
旦那の会社が倒産して自分たちの家も手放さなければならなくなって、
でも、その家をポンと買った自分よりずっと若い独身の女が
どうしても気に入らなくて憎くて自分が惨めで、丹精込めて育てた庭や
家に対する執着も捨て切れなくて、苦しさのあまり(以下略)っていう話。

専業主婦の視点なんで、最初は専業主婦に同情するんだよね、
お気の毒様でございますね、という。
(ただし、この時点でこの主婦が鼻につく感じも多分にあるw)

またこのね、家を買うことになる若い女が内見にやって来るシーンの
描写が絶妙で、この女が天才的に憎たらしく癪に触るんだよ!

「気に入っちゃったなあ。すごく。買っちゃおうかな」
(中略)
こういう庭のある可愛らしい家、暮らしが豊かになりそう。花がいっぱいで、なんか大島弓子みたいだし。女は悩ましそうな笑顔をつくってひとりごとみたいにそう言いました。 (p106)

シンクひとつ、生地ひとつ、床のワックスひとつ、ドアノブひとつにまで
こだわって作り上げた家を、“なんか大島弓子みたい”で“メルヘンで可愛い”
と片付けられた主婦の気持ちといったらね!!

しかしこの短編の真価は、主婦と女が対決(笑)する後半戦で、
女が主婦の価値観をフルボッコ粉砕する舌鋒の鋭さと、それに続く、
主婦への救済(?)として、女が<ネタバレ>
「棺桶タイプでゆきましょう」と言って主婦を庭に埋めるオチは
<ネタバレおわり>
わたし一生忘れないです。川上未映子、スゴイ。


「三月の毛糸」「十三月怪談」は震災後の不安を書いた話で、
おそらく一般受けするのはこっちだろうなーと思う。



あといくつか気に入って付箋貼ったとこ。
少し意地合わるそうな彼の一重まぶたの目が好きで、でもそのよさをどうやって表現すればそれをちゃんと言い終わったことになるのかがわからない。(中略)でもそれも悪くないなと天井をみながらそう思う。うまく言葉にできないということは、誰にも共有されないということでもあるのだから。つまりそのよさは今のところ、わたしだけのものということだ。 「アイスクリーム熱」(p8-9)

ところでマカロンを買うときのあの気分っていったい何だろうといつも思う。自分が掛け値なしの馬鹿になったみたいな気持ちになっていっそ清々しいような気持ちになるあの感じ。 「愛の夢とか」(p26)

子どもの頃に親が金をかけて矯正でもさせたのでしょう。目の動かしかたや会釈のしかた、人の目がしっかりと意識された不自然なくらいにしゃんとした姿勢のよさ、声の張りひとつとっても、そこには美人でも不美人でもない女に特有の努力のあとがみてとれました。上質で、明るい匂いのするものだけを自分のまわりに集めて、それを心の底から楽しんでいるようなそんなふりをもう何年もやりつづけてきて、まわりの人間や自分自身にそれを内側からおのずとあふれてくる自信だと思い込ませることに成功していると安心している、わたしの目の前にあらわれたのはそんな女でした。 「お花畑自身」 (p95)

それに時子がときに泣きながらそういった想像上の話をするときの真剣さと繊細さにふれるにつれて、彼女がこういう話をするのはなにも人を不用意に不安や不快にさせるためでも、思春期から積み残したある種類の承認欲みたいなものを満たすためでも―――――つまりわがままでもなんでもなくて、真剣に、純粋に、いつか生きている者をすべてとらえてしまうだろう死のようなものや自分がおそれているいくつかの可能性について感じてしまう恐怖そのものに、とにかく感受性の根っこみたいなところを否応なく捉えられているのだな、これはきっと本人にもどうしようもない種類の話で、それはそれで生きにくく、またしんどいことだろうなと思えば、彼の胸はいつも少しやわらぐのだった。 「十三月怪談」 (p149-150)

マカロンについては全面的に同意しますw
「マカロン買う女」と思われたくない女です。
ごめんねマカロンきみに罪はない。




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