ホフマン 『砂男/クレスペル顧問官』

砂男/クレスペル顧問官 (光文社古典新訳文庫)
サイコ・ホラーの元祖と呼ばれる、恐怖と戦慄に満ちた傑作「砂男」。芸術の圧倒的な力をそれゆえの悲劇を幻想的に綴った「クレスペル顧問官」。魔的な美女に魅入られ、鏡像を失う男を描く「大晦日の夜の冒険」。ホフマンの怪奇幻想作品の中でも代表作とされる傑作3篇。

ホフマン『砂男/クレスペル顧問官』読了。
(原題:Der Sandmann. Rat Krespel 訳:大島かおり)

いやー、サイコホラーの元祖とか言われるだけあって、ゾクゾクしました。
一度回復したと見せかけてからのオチ、すばらしいですね!!
ピュグマリオニズム文学の最高峰は乱歩の『人でなしの恋』だと信じて疑わないわたしですが、ホフマンやるじゃん~☆と小突きたい。

正直、これのどこをどうしたらコッペリアみたいな喜劇になるのかサッパリわけがわからなかったんですけど、
当時からホフマンは超売れっ子だったらしいんで
ホフマンが原案となればバレエもお客さんがいっぱい入ったのかなー。

「クレスペル顧問官」もえらい面白かったです。



ホフマンは色々な訳が出てるので、岩波版(池内紀)と集英社版(種村季弘)を
ちょっと読み比べてみたらかなり趣が違っていて面白かった。
(※集英社版は『世界文学全集18』から収録された筑摩書房の『思いがけない話』を参照)


ホフマン短篇集 (岩波文庫)ホフマン短篇集 (岩波文庫)
(1984/09/17)
ホフマン

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ちくま文学の森5巻 思いがけない話ちくま文学の森5巻 思いがけない話
(2010/12/10)
安野 光雅、 他

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訳比較↓(※超絶ネタバレ注意!)



 その1. オリンピアが人形だと知ってナタナエルが錯乱するシーン。


【岩波文庫版】 池内紀訳 『ホフマン短編集』 岩波書店, 1984.9
 みると足元に二つの目玉が血まみれになってころがっており、じっとナタナエルをみつめている。スパランツァーニ教授は傷ついていない方の手でそいつをつかみ、はっしとばかりにナタニエルに投げつけると、目玉はみごとに彼の胸に命中した―――――この一瞬、狂気が炎のように燃えたってナタナエルの一切を焼きつくした。
「ヒェー!火の環だ、火の環がまわる―――――まわれ、まわれ、どんどんまわれ!―――――人形もまわれ、すてきな美人の人形もまわれ」
 そんなことをわめきながらナタナエルはスパランツァーニ教授にとびかかり首を締めつけた。 (p204)


【集英社版】 穂村季弘訳 『砂男』 (『思いがけない話』所収)筑摩書房, 2010.12
ナタナエルは、血まみれの目玉が二つ床の上にごろんと転がって、じっと自分の方を見つめているのに気がついた。するとスパランツァーニが怪我をしていない方の手でそれをむずとつかんで彼の方に投げつけたので、目玉はナタナエルの胸に発止とばかり命中した。―――――この瞬間、ナタナエルは狂気の灼きつくような鉤爪にがっしとばかりつかまれた。狂気は胸底深くまで食い入って、思慮分別をズタズタに引き裂いた。「フイ――――フイ――――フイ!――――火の輪よ――――火の輪―――火の輪は回れ、ぐるぐる回れ――――楽しいな――――面白いぞ!――――木のお人形さん、フイ、きれいな可愛いお人形さん、ぐるぐる回れ――――」そう言いながらナタナエルは教授めがけてガバと身を投げ、相手の咽喉をしめ上げた。 (p445-446)


【光文社古典新訳文庫版】 大島かおり訳 『砂男/クレスペル顧問官』 光文社, 2014.1
見ると、血まみれの眼玉が二つ、床にころがって、じっとこっちをにらんでいる。スパランツァーニは怪我をしていないほうの手でその眼玉をつかむと、ナターナエルめがけて投げつけた。胸に当たった。―――――そのとたん、狂気が灼熱の爪でナターナエルを襲い、内面に押し入って、感覚と思考をずたずたに引き裂いた。
「まわれ――――まわれ!――――火の環――――火の輪!どんどんまわれ――――火の輪――――いいぞ――――愉快だ!――――ほれ、木の人形、美しいお人形さん、まわれ、まわれ――――」
 こう叫びながら彼は教授に飛びかかって、喉を締め上げた。 (p72-73)

うーん、台詞の狂気度は穂村訳が一番高いかなあ。フイ!がこわいwww
あと「ごろんと」「はっしと」「むずと」「がっしと」「ガバと」ってオノマトペ多すぎ。
光文社版はわりと理性的というか、淡々としてますね。



その2. 一度回復したと思われたナタナエルのプレイバック狂気シーン。



【岩波文庫版】
「小さな暗い藪かしら。変ね、なんだかこちらに近づいてくるみたい。」
 クララが指さした。なにげなく胸のかくしをさぐった拍子に、ナタナエルはコッポラの望遠鏡に気がついた。取りだして目にそえると―――――レンズのすぐ前にクララがいた!急に脈搏が高まり血管がふくれあがったような気がした。血の気を失ったまま、まじろぎ一つせず食い入るようにクララを凝視していたが、やがて目つきが熱をおびて揺れはじめた。ナタナエルは追い立てられた獣のような唸りを発したかとおもうと、床を蹴って跳びあがり、気味の悪い笑いの合間に金切声で叫びたてた。
「まわれ、まわれ、木の人形。まわれ、まわれ、お人形さん!」
 やにわにクララをかかえ上げると下へ投げ落とそうとする。 (p209)


【集英社版】
「ほら、あのおかしな小さい灰色の茂みをご覧なさいな。本当に私たちの方に向って歩いてくるみたいに見えるわ」とクララが言った。――――ナタナエルは機械的に上着のポケットを探り、コッポラの望遠鏡を見つけると、それで脇の方を覗いた――――クララがレンズの真前に見える!――――途端に身体中の欠陥がびりびりと痙攣し――――彼は死人のように顔面蒼白になってクララを凝視していたが、いきなりぎょろぎょろ光る眼からぱっと火の手が上って四方に飛び散ったかと思うと、ナタナエルは追いつめられた野獣のようなすさまじい呻り声を上げて、ひょいと虚空に舞い上り、ついでにぞっとするような笑い声を立てながら耳も裂けよとばかりの声で叫んだ。「木のお人形さん、ぐるぐる回れ―――木のお人形さん、ぐるぐる回れ」――――そういって、おそろしい馬鹿力を出してクララを鷲づかみにして下に投げ落とそうとしたが、絶体絶命の恐怖に駆られてクララは手すりに爪を立ててしがみついた。 (p450-451)


【光文社古典新訳文庫版】
「ほら、見て、あのおかしな形の小さな灰色の茂み、まるでこっちへ歩いてくるみたいに見えるわ」
 ナターナエルは思わず反射的に脇ポケットに手をいれた。コッポラの望遠鏡があった。それを目に当てて横を向くと――――レンズのまえにクララが!血管という血管に痙攣が走り――――蒼白になってクララを凝視していたが、やがてぎろぎろと動く眼玉が火花を散らしたかと思うと、追い詰められたけだもののような恐ろしい唸り声をあげ、こんどは高く跳びはねながら、不気味な哄笑とともに、耳をつんざく声でわめいた。
「木の人形、まわれ――――木の人形、まわれ」
 そしてすさまじい力でクララをつかむと、塔から投げ落とそうとする。 (p78-79)

うむ、やっぱり穂村訳はキてる。そしてオノマトペ好きなんだなよくわかった。
コッペリウスの不気味さも、穂村訳が頭一つ抜けてました。
全体的に、やはり古い訳のほうがアグレッシブさが際立って狂気度が高い印象。
光文社の新訳も「癲狂院」「白痴」という現代ではタブーな差別用語が使ってあるけど
(編集部の断り書きつき)なんとなく、大人しくまとまってる感じ。
語学力がないから原著との読み比べは出来ないけど、日本語訳の比較もけっこう楽しいな。
ちくま文学の森シリーズは数あるアンソロジーの中でも好きなシリーズ。
おととしから去年にかけて刊行された国書刊行会の「新編バベルの図書館」、
これも集めたいんだけどお高くて・・・(ノД`)
読書クラスタでも少数派の幻想文学好きさんたちが金欠に喘いでいたからね・・・。
新編バベルの図書館 第1巻新編バベルの図書館 第1巻
(2012/08/27)
ホルヘ・ルイス・ボルヘス

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でも「書物の王国」シリーズも品切れになる前に全巻揃えときゃよかったなと
後悔してるので、在庫があるうちに買っとくべきかなあ・・・・(⊃д⊂)


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