ブッツァーティ 『神を見た犬』

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)


とつぜん出現した謎の犬におびえる人々を描く表題作。老いたる山賊の首領が手下にも見放され、たった一人で戦いを挑む「護送大隊襲撃」…。モノトーンの哀切きわまりない幻想と恐怖が横溢する、孤高の美の世界22篇。 

想像してみる。
仕立てたばかりの新品のスーツのポケットに何気なく手を入れると、
1枚の紙幣が出てくる。
仕立て屋の手違いかと訝しんでみるが、もう一度手を入れると、また1枚。

ポケットからは無限に紙幣が出てくる。
夢中で金を取り出しているうちに、いつの間にか部屋は大金に埋もれる。

翌日のニュースで、昨日自分がポケットから出した額とピッタリ同じ金額が
銀行から強奪されたと騒ぎになっている。
さあ、部屋に積まれた大金とニュースを見比べて、自分ならどうするか。



収録されている一篇「呪われた背広」の導入がだいたいこんな感じなんだけど、
どうしたって「自分ならどうするか」ということを考えずにはいられない。
 
セス・フリードの『大いなる不満』を読んだ時もずっと考えていたんだけど、
どんな時代に生まれようが、どんな国に生まれようが、神を信じようが信じまいが、
結局のところ、人間って同じことで悩み苦しむ一生なんだよな、と。

  欲と、自意識と、老い・死への恐怖。

どうせ逃れられないのなら、悩むことは無駄なんだろうか。
なんかこれ、くよくよしている時に読むといいのかもしれないな。
一切無駄のないストーリーテリングの中に人類普遍の悩みがユーモアたっぷりに
描かれている。

22篇すべて傑作だった。素晴らしい。


「コロンブレ」「七階」「風船」「呪われた背広」「マジシャン」が 特にお気に入り。





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