白石一文 『彼が通る不思議なコースを私も』

彼が通る不思議なコースを私も


友人がビルから飛び降りようとしている現場で、霧子は黒ずくめの不思議な男と出会った。彼の名前は椿林太郎。学習障害児の教育に才能を発揮する、優秀です こし変わった小学校教師。霧子は彼に魅かれていくが、実は彼には知られざる能力があって…。生への根源的な問いを放つ、傑作長編。


途中でやめられなくて一気に読み切ってしまった。

人は寿命をまっとうすべきだ。
人間はちゃんとした死に方で死ぬべきだ。
人の生き死にについて、これ以上当たり前な“正論”があるだろうか。


目も耳も塞いでしまいたくなるニュースがこの世にはあふれている。
恐ろしいことに、最近はそういう酷いニュースにも”慣れ”つつある。
「ひどい」「どうしてそんなことを」と思うのと同時に、どこかで「またか」という
気持ちがある。


そうじゃない。
人は寿命をまっとうすべきだ。


目の前の霧が晴れたような気持ちがした。
至極当然のことを、“当たり前だよ”と力強く肯定してもらえる、
それだけで人間はひどく安心する。救われる。



「僕はね、子供たちにとにかく生き長らえてほしいんだ。こんなひどい時代でも、絶対に死なないで生き続けてほしい。僕の目標というか望みはそれだけかな。できれば、彼らが子供時代のことをできるだけたくさん憶えたまま大人になってくれたらいいといつも思ってるよ」  (p254)

「キリコさんは、人間が生き延びるために一番必要なことって何だと思う」
(中略)
「夢や希望も、たしかに生き延びていくために大事だけどね。でも、こんなふうになりたいとか、こんなふうに愛されたいって望んでも、かないっこないことってよくあるでしょう。夢も希望も持てない時期が必ずある。そういうときに人間は割合簡単に絶望してしまう。大人と同じように、子供だって絶望しちゃうんだ。そんな場面で、幾ら、いま我慢してれば明るい未来が待ってるとか、夢や希望だけは捨てちゃいけないって言っても、彼らは耳を傾けてはくれない」 (p254-255)

「自分が好きだってことなんだよ。他の誰でもない、とにかく自分自身が大好きで、超愛してるって思えることだよ。自分が大事で大事でたまら ないって思えれば、その子供は絶対に死なない。それはそうだろう。世界で一番大事なものを失いたいって思う人間はいないからね。だからね、僕は、どんなこ とがあっても子供たちが自分のことを嫌いにならないように、すごくすごく好きでいられるようにしてあげたいんだ。そのためにどうすればいいか、そればっかり毎日考えてる。」(p255)


もしこの先、 本気で生きるのが嫌になったとしても、この台詞を思い出せば
なんとか生き延びられるんじゃないかって、そんな気がする。
現状が劇的に好転することはなくても、息がしやすくなるんじゃないか。

この世に、“正論”を、生きるということを肯定してくれる人がいるという、
それを知っているだけでも、何かが大きく違うんじゃないか。

読書は人を生かす。






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