片瀬チヲル 『泡をたたき割る人魚は』

泡をたたき割る人魚は


片瀬チヲル 『泡をたたき割る人魚は』 読了。
第55回群像新人文学賞優秀作。
肉体と溶けるように生えている鱗には、水晶の破片のような泡が封じられていた。波打ち際に白い泡が残るさまに似ている。人魚というのは、二枚の花びらを蜂の針で縫い合わせるようにしてできあがると思っていたのに、そうではなかった。たんなるつぎはぎではない。尾ビレを支える腰回りの肌は少しだけつっぱっていた。境目の皮膚は薄く、血管が、晴れた日の葉脈のように透けて見えた。その血管は鱗になるのを夢見て、か細い渦巻き模様を描き、薫の腰回りに三日月の影をおとした。

冒頭、主人公・薫が人魚へと変身する描写に惹かれて読んだ。

いやー・・・。最近の若い人は本当に文章が巧いですね。
この人1990年生まれですよ。うわあ。

比喩表現じゃなくて、本当に普通の人間だった女の子が人魚に変身しちゃうんですよ。
主人公の薫は恋愛とか人とのつながりに意味を見いだせないちょっとドライな女の子で
「魚になって水にかえりたい」と願いつづけ、
魔女に頼んで、足と引き換えに人魚の鱗と尾ビレを手に入れる。

ちなみに、魔女のおばあさんは今川焼屋です。

ちょいちょい「えっ?」っていうファンタジー要素はあるんだけど、
ごく普通の日常の描写の合間にしれーっと紛れるんで
「ああ、まあそういうこともあるかもねえ」というテンションで違和感を感じない。

文章が独特なんですよね。川上弘美の初期の不思議系にちょっと似てる?かも。
語彙は詩的なんだけど、いい具合に力が抜けている。
ともすればロマンチックでチープで厨二病になっちゃいそうな
ストーリーなんだけど、この独特な文章のおかげで、陳腐さとか安っぽさを感じないです。

(1990年生まれっていうといわゆるデジタルネイティブ世代に当たるんですかね?
勝手な推測ですが、この人の語彙はネットの影響が強いような気もする。)

ただ、こういう感覚が受け容れらない人もいっぱいいるかも。
文章も、薫というキャラクターも「無理やわー」って人は読むの辛いと思う。

かくいうわたしも、ストーリーも出てくるキャラクターも特に好きじゃなかったんだけど、
それでも、この独特なバランスを持った文章が巧いなあ、と思って感心して読みました。

この人がどろっとした愛憎書いたら凄そう、と思うんだけど。



0 コメント:

コメントを投稿