西崎憲 『飛行士と東京の雨の森』

飛行士と東京の雨の森


西崎憲 『飛行士と東京の雨の森』読了。

「理想的な月の写真」「飛行士と東京の雨の森」「都市と郊外」
「淋しい場所」「紐」「ソフトロック熱」「奴隷」
の7編からなる短編集。

不思議な印象の本。

これといって特別な設定や事件が起こるわけでなく、
(最後の「奴隷」だけは別。これだけ異色作)
ありふれた“日常”と、日常の中にふと現れる“人間の懊悩”
のようなものが描かれていますが
不思議な寂寥感と、ノスタルジックな雰囲気に呑まれます。

著者の略歴を見ると、音楽レーベルを主宰されていたり、
翻訳も手がけるということで、全体的に知的な香りがするけれど
シモーヌ・ヴェイユなんかを引用しているのに
難解さや押しつけがましさを感じないのは文章が巧いせいなのかな。

ストーリーの起承転結にメリハリがあまりなく、
「面白かった!!」とか「感動」とか、
そういうパッションの強い感想は抱きにくいんですが、
ちょっと他と違う、知的で、どこか寂しい空気感を楽しみたい、という人は
ものすごく好きなタイプの作家さんだと思う。

亡くなった娘のために、娘が好きだったものを素材にして
CDを制作してほしい、という依頼を受けた音楽ディレクターが
娘の遺した10のアイテムを元に、娘の生きた軌跡を追う話
「理想的な月の写真」

友人から聞いた「紐」にまつわる話
「紐」

ある日奴隷を買うことを思い立った専業主婦の話
「奴隷」

この3つが好みでした。

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